バカの壁|養老孟子|読書会感想

2003年に東京大学の解剖学教授であった養老孟司氏によって書かれた本書は、人々は自身の知識や価値観というフィルター、いわゆる「バカの壁」を通してしか世界を見ることができないと述べている。
そして、そこに生じた価値観の隔たりは、容易には乗り越えることができない。なぜなら、人は知識だけでなく経験や興味によって、受け取る情報を無意識に選択し、それぞれ異なる世界を認識しているからである。そのため、「話せば分かる」という考え方には限界があると説いている。
だからこそ、自分の考えが絶対ではないことを自覚することの大切さを伝えていると感じた。
同時に、各章が断片的で、まるで随筆のような印象を受けた。読み進めるにつれて、一つの情景が浮かんだ。
小料理屋のカウンターに座った作者が、恐縮する若い担当者を前に、泡のように浮かんだ思考を結論が見えぬままに熱弁する。
すると店の女将が、おばんざいを小鉢によそいながら言うのである。
「先生っ。もう今日はそのくらいに。お体にさわりますよってに。」
苦笑する若い担当者を横に、残った冷酒をくいっと流し込むと、空になった杯を女将に突き出し、彼は言う。
「年寄り扱いしてもらっては困る! まだまだ若い者には負けんよ!」
そうして優しく微笑む女将は、「ハイハイ。」と次の冷酒を杯に注ぐ。
もしかしたら、日常から隔絶された、どこかの夜の出来事が、この一冊なのかもしれない。
どこか説教じみて感じた本書との「壁」も、そう空想することで、幾らか乗り越えられる気がした。

